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最高裁判所第三小法廷 昭和32年(さ)8号 判決 1957年12月24日

主文

原略式命令中第一事実に関する部分を破棄する。

右第一事実に関する本件公訴を棄却する。

理由

検事総長の本件非常上告理由について。

被告人金寿礼に対する酒税法違反被告事件の訴訟記録に徴すると、同被告事件につき昭和三二年四月一九日豊橋簡易裁判所は、被告人が所轄税務署長より酒類製造の免許を受けないで雑酒を製造する目的を以て、第一、昭和三〇年六月一〇日頃豊川市牛久保町字橋向九番地森耕方西側小屋において、砕麦五升位をむしたものと小麦こうじ二升五合位及び水約一斗を原料として、これを水がめに仕込んで醗酵させ同年六月一六日頃前同所に於て雑酒約一斗五升位を製造して販売し、同月二三日頃その残り七升三合を所持していた、第二、同年六月二二日頃前同所において、砕麦二斗位をむしたものと小麦こうじ一斗位及び水約五斗を原料として、これを木桶二個に仕込んで醗酵させ雑酒もろみ六斗九升三合を製造したが、同年六月二三日収税官吏に発見されたためその目的を遂げなかった、との酒税法違反の事実を認定し、これに対し相当法条を適用して「被告人を第一事実につき罰金五千円に、第二事実につき罰金二万一千円に各処する。右の罰金を完納し得ない場合はその分について金二五〇円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。押収に係るもろみ三六一合の換価代金二三三円一〇銭(領置番号昭和三二年領一二四号の証第一号)、もろみ三二八合の換価代金二三五円八〇銭(同領置番号の証第二号)、濁酒六三合(同領置番号の証第三号)、濁酒六合の換価代金五円四〇銭(同領置番号の証第四号)、木桶一個(領置番号昭和三二年庁外保管第一号の証第外一号)、木桶一個(同領置番号の証第外二号)、大水がめ(同領置番号の証第外三号)、水がめ一個(同領置番号の証第外四号)は何れも之を没収する」旨の略式命令をなし、この裁判は昭和三二年四月二〇日被告人に送達され、その後正式裁判請求期間の経過により同年五月五日確定したこと、被告人は右第一事実と同一の行為につき昭和三一年二月一日税務署長の通告処分にもとづく罰金相当額四、八〇〇円の履行をしたので、収税官吏の告発がなかったのに略式命令の請求がなされたこと及び前示の各没収物件中濁酒六三合、濁酒六合の換価代金五円四〇銭、大水がめ、水がめ一個は、いずれも右第一の犯罪にかかるものであることの事実を認めることができる。

してみると、略式命令の請求を受けた豊橋簡易裁判所は、その公訴事実中第一の酒税法違反の事実及びこの事実にかかる没収につき被告人は通告処分を履行し、収税官吏の告発がなかったのであるから、すべからく刑訴四六三条により通常の規定に従って、審判をした上、右の部分については公訴提起の手続がその規定に違反したものとして同三三八条四号により判決をもって公訴を棄却し、その余の第二事実についてのみ有罪の言渡をすべきであったといわなければならない。しかるに、このことなく前記のように、右第一事実につき有罪の認定をし、被告人を罰金五千円に処し、前示四つの物件を没収する旨の略式命令をしたのは違法であり、かつ、被告人に不利益であることが明らかである。

よって、刑訴四五八条一号により原略式命令中第一の酒税法違反の公訴事実及び該事実にかかるものとして没収の言渡をした濁酒六三合、濁酒六合の換価代金五円四〇銭、大水がめ、水がめ一個に関する部分を破棄し、右有罪部分についての本件公訴を棄却すべきものとし、裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 島 保 裁判官 河村又介 裁判官 垂水克己)

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